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滑走する情感 (福間洸太朗-名曲リサイタル・サロン) [コンサート]

福間洸太朗さんは、コロナ禍のなかのこの3年間、もっとも聴く機会が多かったピアニストかもしれません。

寒い国の音楽に特に熱い思いをお持ちの福間さんが、飛びきり5月らしい青空が拡がったこの日に、オール・ラフマニノフのプログラムで登場。

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その第1曲は、その5月にふさわしい《リラの花》。

リラ、あるいは、ライラック。日本人にとっては北海道を思わせるし、どこか北の異国への郷愁や望郷の喪失感のようものを連想させますが、ロシアにとっては沈殿していたものが吹き上がるような春の到来を思わせるそうです。5月そのもの。

福間さんは、いつも、プログラムに何か一貫した《筋道》のようなものを込めて、考えに考え抜いて磨き上げる。そういう思いが聴き手のこちら側に熱く語りかけてくる。そういうピアニスト。ナビゲーターの八塩さんが、さっそく、福間さんのシャツの薄紫色に目をつけて「それは、もしかしてリラの花の色?」と問いかけると、よくぞ聞いてくれましたとばかり破顔一笑。もうお話しが止まらない。

ラフマニノフというと、とかくロシアのピアニストはどこかおどろおどろしく大げさに、あるいは時に耽溺的に弾きます。確かに、低音は存分に低く強く響かせるのがラフマニノフですが、やはり、もっと歌や叙情の緩やかで滑らかな流れのようなものがあって、色調も明るく澄んだものがあってよいのではないかと思うのです。つい先日聴いたプレトニョフの指揮なんかは、本当にそのことを実感しました。

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福間さんのラフマニノフも、とても叙情的。

前奏曲《鐘》も、確かにロシア正教の鐘で深く暗鬱に響きますが、曲全体には希望とか春の到来を希求するような切ない想いが静かに流れています。この《鐘》をめぐって八塩さんが話題をフィギュアスケートの方に振ると、これも待ってましたとばかり。福間さんはフィギュアスケートの大ファンなのだそうです。

浅田真央さんの人気がそうさせたのかもしれませんが、ラフマニノフの音楽が使われることが多いことは、誰もが感じていることではないでしょうか。ラフマニノフには、ダンスといっても足を踏み踵を鳴らすような細かい拍節とかリズムの刻みというよりは、もっと滔々と流れるような物語とじっと佇むような情念があって、そこからふっと伸び上がり浮遊する大きな起伏がある。それが、とてもフィギュアスケートに合うということではないでしょうか。そして福間さんのラフマニノフは、そういう滑走する情感にあふれています。そう気づくと、福間さんのラフマニノフ愛にそこはかとなく同調する気分になってきます。

最初は今ひとつ鳴りのよくなかったピアノも、次第にほぐれてきて後半の前奏曲では、そういう滑らかな流れのなかで時に感情が吹き上がり、時に気持ちがキラキラと煌めきます。美しく気持ちが揺れるような時間が流れていく。

この短いコンサートにもアンコールを弾いてくれて、それがスクリャービンの左手のノクターンだったのがとても嬉しかった。




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芸劇ブランチコンサート
名曲リサイタル・サロン
第24回 福間洸太朗
2023年5月24日(水) 11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階P列26番)

福間洸太朗(ピアノ)

八塩圭子(ナビゲーター)


《生誕150年記念 オール・ラフマニノフ・プログラム》
リラの花(ラフマニノフ自作編曲)
パガニーニの主題による狂詩曲より第18変奏 (ピアノ編曲:Le Coustumer)
幻想的小品集op.3より
 第1番 「エレジー」、第2番 前奏曲『鐘』、第3番 「メロディ」
前奏曲op.32より
 第1番ハ長調、第2番変ロ短調、第5番ト長調
 第10番ロ短調、第11番ロ長調、第12番嬰ト短調、第13番変ニ長調

(アンコール)
スクリャービン:左手のためのノクターンop.9-2
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