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「楽器編成が変わるピアノ三重奏曲」 (清水和音の名曲ラウンジ) [コンサート]

ウィークデーのお昼前のお手軽なコンサートシリーズの「芸劇ブランチコンサート」。

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お手軽といっても、それは休憩なしの1時間ぽっきり、チケット代もお財布に優しい、ということであって、中味はとても濃くて極上の演奏が楽しめます。

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司会も兼ねた清水和音さんは、その軽快なトークも楽しいのですが、何よりも素晴らしいのは、そのプロデューサーとしての力量なんだと思います。毎回登場する若手・中堅のプレーヤーの豪華なことは、清水さんならではのネットワークのたまものなのでしょうし、その選曲についても名曲ぞろいでありながら、ちょっと生演奏では聴く機会が少ないレアもの。

この日のゲストの、伊東裕さんも、伊藤圭さんもそういう実力派の若手・中堅です。伊藤さんはこのシリーズでは常連といってもよい顔なじみですが、クラリネットというのはなかなかステージでスポットライトを浴びにくい存在。オーケストラやブラバン、室内合奏で、あれほど重要な役割を担いながらも、ソロピースとなると意外に少ない。

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この日のプログラムは、室内楽の王道である三重奏ですが、いずれもクラリネットが主役の三重奏曲。

グリンカは、初めて聴く曲ですが、題名が「悲愴」という割には情緒豊かな美しい音楽。ロシア国民音楽の祖として知られるグリンカですが、これまたロシア情緒一辺倒ではなくて西欧あるいは南欧的な優美さにも溢れています。もともとはチェロではなくてファゴットとのトリオだそうですが、伊東裕さんのチェロにかかると、クラリネットの音色との融和が実に蠱惑的。伊藤圭さんは、アンサンブルにはいつも裕さんをご指名なのだそうですが、それも宜なるかなだと思います。ひとまわりお歳の違うお二人ですが、その出会いは圭さんが東京芸大学内で組んだアンサンブルだったそうで、以来、このお二人の組み合わせが続いているのだとか。

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その、裕さんのソロによるベートーヴェンの変奏曲。

そのチェロの柔らかでビロードのように滑らかな音色の素晴らしいこと。チェロという楽器は、いざソロとなるとガッガッと激しいアタックをかけたり朗朗と雄渾に歌い上げたりするような楽器ですが、裕さんのソロは決してそういうことがない。それでいて、子音のような頭は明瞭だし倍音豊かな音色は明快でよく遠くまで届く。

伊東裕さんは、先般、東京都交響楽団の首席に就任しましたが、以前から紀尾井ホール室内管弦楽団のメンバーですし、何と言っても今注目度最高の《葵トリオ》のメンバーです。根っからのアンサンブルプレーヤーなのでしょう。清水さんが盛んに楽しそうにからかっていましたが、裕さんは人前で話すのが苦手なのだそうですが、そういう気質と通じ合うところがあるのかもしれません。

最後のベートーヴェン「街の歌」は、たいへんな名曲ですが、クラリネットが加わってのピアノ三重奏曲ということで、滅多に生演奏は聴けません。それがもう、素晴らしい音楽でした。若いベートーヴェンが、ウィーンの華やいだ旋律を巧みに繰った実に晴れやかな音楽。クラリネットの音色の高低の広い音域での豊かな音色を、実に安定した音程で繰り広げる伊藤圭さんの名人芸と、それを引き立て、時に優雅に掛け合う伊東裕さんのチェロ。清水さんのピアノは、こういうベートーヴェンの時に最良の美質を発揮します。

ほんとうに堪能しました。


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芸劇ブランチコンサート
清水和音の名曲ラウンジ
第42回「楽器編成が変わるピアノ三重奏曲」
2023年6月21日(水) 11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階P列28番)

グリンカ:悲愴トリオ 二短調
 伊東裕(Vc)伊藤圭(Cl)清水和音(Pf)

ベートーヴェン 「魔笛」の主題による7つの変奏曲 変ホ長調WoO.46 (Vc+P)
 伊東裕(Vc)清水和音(Pf)

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲「街の歌」op.11 変ロ長調
 伊東裕(Vc)伊藤圭(Cl)清水和音(Pf)

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