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たっぷりとした情感 (辻本 玲-名曲リサイタル・サロン) [コンサート]

辻本 玲さんは、言わずと知れたN響のトップ。これまでも何度も聴いているけれど、よくよく振り返ってみるとソロで聴くのは初めて。とにかく上手で何でもこなすので、臨時編成のアンサンブルにも引っ張りだこ。東京・春音楽祭のベンジャミン・ブリテンシリーズでは、常連メンバー。チェロ・コンチェルトでは、ソロばかりか解説にも付き合ってそのタフネスぶりも発揮されていました。

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最初のバッハのプレリュードからしてすっかり引き込まれてしまいます。この日は、今年の初日ということもあってかほぼ満席。その聴衆が静まりかえって集中しているのが伝わってきます。

使用楽器はストラディヴァリウス(1730年製)で、少し浅めの色合いですが、これがまさに飴色の滑らかでよく歌うテナー。その豊かで泰然とした音色を聴くと、やっぱりチェロは体格で弾くものかなと思ってしまいます。

フランクのチェロ・ソナタは、これも言わずと知れたヴァイオリンの名曲。チェロでもよく弾かれるし、池松宏さんみたいにコントラバスでも弾いてしまう名曲中の名曲。その堂々とした風格で浪々と歌われると、まさに魂を持っていかれてしまいます。チェロは、指の移動距離が長くてそれだけヴァイオリンよりも難しいのですが、その分、音符から音符への間に様々なニュアンスの変化がつけられる。そのフレージングの舌を巻くほどの巧さに次第に心が揺さぶられていきます。

第一部が情熱の絶頂で終わると、曲の途中にもかかわらず会場からは思わず拍手の嵐が。本当に思わず拍手したくなるほどで、私もつられて拍手してしまいました。何やら行儀作法にうるさい東京の聴衆ではとても珍しいハプニング拍手ですが、それは心からのもので何の違和感もありません。

辻本さんがにこやかに会釈するとすぐに拍手は収まり、ファンタジーにあふれた第二部が始まります。循環主題がよみがえってきて全体を締めくくると、ここで本格的な拍手喝采。

ナビゲーターの八塩圭子さんとは、焼き肉の話しで大盛り上がり。体格こそ朗々たるチェロの音色の源泉ということで納得ですが、意外だったのはピアノの吉武 優さんまで肉好きということで、話しは肉ずくめ。

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吉武さんは初めて聴きましたが、辻さんと息もぴったり。フランクでも実に熱い情熱のピアノで、今回が初めての共演ということに二度びっくり。プログラム最後のピアソラでは、互いにアクロバチックな技巧を凝らしての快演でした。

アンコールは、ラフマニノフのヴォカリーズ。チェロのアンコールピースとして超有名で何度も聴いていますが、これは最高の演奏でした。一番好きなハインリッヒ・シフが頭に浮かんできますが、それがリアルで眼前で聴かせてくれるのですからそれ以上の至福。陶然とさせられました。

いま、日本人最高のチェリストだと、帰り道では思わずのため息ばかりでした。


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芸劇ブランチコンサート
名曲リサイタル・サロン
第28回 辻本 玲
2024年1月17日(水) 11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階M列17番)

辻本 玲 (チェロ)
吉武 優(ピアノ)

八塩圭子(ナビゲーター)


J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番より プレリュード
フランク:チェロ・ソナタ
ピアソラ:ル・グランタンゴ

(アンコール)
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
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