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サンクスコンサート (アートスペース・オー) [コンサート]

町田市の小さなコンサートサロン、〈アートスペース・オー〉が今年いっぱいで閉店することになりました。

1989年に開設。陶器の店や陶芸教室が1階に、その上の2階のスペースで音楽会を開催するという音楽と美術が一体となったスペース。1990年2月の漆原朝子さんのヴィオリンリサイタルを皮切りに、以来、234回の公演を重ねてこられました。

私がこの場所を知ったのは、ヴァイオリニストの南紫音さんの追っかけがきっかけでした。忘れもしないあの大震災の時のことです。

南紫音さんは、ちょうど二十歳(はたち)。まだ桐朋学園在学中でしたが、西南女子学院の高校生の時にロン=ティボー国際コンクールで第二位という輝かしい実績をひっさげて公演を重ねていたとき。トッパンホールでのリサイタルに魅了され、もう一度公演を聴きたいと探索していて、この場所を知ったのです。

当日は、震災の恐怖がまだ醒めやらぬ翌々日の日曜日でした。ピアニストの菊池洋子さんとのデュオは、そういう震災の動揺から抜け出せていない気持ちを奮い立たせてくれるような素晴らしい演奏。お二人の小さな空間をも容赦しない渾身の演奏はまさに奇跡のよう。その日に「計画停電」が発表され、首都圏でのコンサート中止や延期が相次ぎました。

その後、すっかりこの空間が気に入ってしまいずっと通い続けてきました。この小さなサロンに名だたる音楽家が登場することにも驚きでした。天井も低く、遮音も十分ではないし、響きもデッド。正直言って、必ずしも理想の音響スペースというわけではないのですが、そういう超一流の演奏がこの小さな空間で目と鼻の先で聞けるというのは、ほかのどんな場所でも得られない希有の経験。

残り少ない限られた時間を惜しむように、サンクスコンサートと称して、今までこのサロンに出演した演奏家の皆さんがかけつけて来られます。

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この日はそうした古くからの常連さんとしてチェロの安田謙一郎さんも登場。ヴァイオリンの鈴木理恵子さんとのラヴェルのデュオはちょっと感動しました。正直言ってちょっと不安定なところはありましたが、ご高齢にもかかわらずラヴェルの難曲に挑む気持ちの若さと屈強なまでの気丈夫さは圧倒的でした。

鈴木さんのご夫君である若林顕さんの強く鮮明な音は、この小さな空間をも容赦しません。この日はヴィオラを受け持った豊嶋泰嗣とのデュオでは、そのことでかえっていかにもシューマンらしい情感の優しい繊細さが表出されていたし、どっしりと構えた池松宏さんのコントラバスとのデュオでは、ピアソラの意外な複雑な内向性が池松さんの美しいテナーときれいなコンビネーションになっていました。

全員そろってのシューベルトのピアノ五重奏「鱒」は、まさに室内楽の極み。このサロンでは、おそらく最大の編成ではないでしょうか。古参の皆さんがこぞってのアンサンブルは、ほんとうにシューベルティアーデとはかくのごとしとでも言うような仲間内の楽しさが満開でした。



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Thanks Concert IV-I
Piano Quintet
若林顕(P)、鈴木理恵子(Vn)、豊嶋泰嗣(Va)
  安田謙一郎(Vc)、池松宏(Cb)

2022年6月12日(日) 19:00
東京・町田 アートスペース・オー

R.シューマン:おとぎの絵本 Op.113(Va&P)
A.ピアソラ:キーチョ(Cb&P)
J.M.ラベル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ(Vn&Vc)

F.P.シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調 D667(Op.114)「鱒」

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