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「トーキョー・キル」(バリー・ランセット 著)読了 [読書]

著者はカリフォルニア大学を卒業後、講談社インターナショナルに入社。25年にわたって美術・工芸、歴史書などの編集に携わったという日本通。

歌舞伎町ゴールデン街や横浜中華街など東京(大首都圏)を舞台に、ラストエンペラー溥儀の財宝を巡って暗躍する、おどろおどろしいまでの反社会的勢力を相手に大活劇を展開するアメリカ人私立探偵の活躍を描く。

ストーリーは、中国マフィアの復しゅうによる連続殺人におびえる旧満州国の日本軍残兵の老人から警護依頼を引き受けるところから始まる。略奪隠匿された財宝が少しずつ姿を現してくる。それは仙厓義梵の知られざる禅画であったり、天下の名碗あるいは満州皇室で常用された茶碗など。誰かが隠匿財宝を取り戻し世間に流出している。やがて財宝には、正宗などの名刀や試し斬りの生き血を吸った日本刀が含まれていることがわかり、話しはどんどんと血生臭くなっていく。

謎は謎を呼び、どんでん返しのジェットコースターは、まさにノンストップなサスペンス・ミステリー。次から次へとおどろおどろしく疑わしい人物が登場するが、怪しげな人物も謎めいた伏線も全て回収されることはなくほとんどが使い捨て。実際のところはミステリーというほどの筋立てはなくて,
もっぱらエキゾチックなアジアン・テーストを暴力的に描いたハードボイルド小説。

描かれた東京も、驚くほど地理的にはリアルだが、色彩はけばけばしいほどにエキゾチック。東洋美術の真相や旧日本軍兵の残虐行為などの歴史告発のようなリアルを期待すると、かなりガッカリ。あくまでも登場するのは、寿司ではなく《カリフォルニアロール》、東京ではなく《トーキョー》。カンフーやチャンバラ的暴力の活写を大いに楽しべきなのだろう。

訳文はいささか雑で、ところどころに校正見逃しのような怪しげな文章や表記が散見される。原文では小気味のよさを狙ったものがスタイルとしてあるのだろうが、訳された日本文はぎこちなくわざとらしい。こんな翻訳ならいずれはAIでも可能になるだろう。



Tokyo Kill.jpg

トーキョー・キル
バリー・ランセット (著)
白石 朗 (訳)
集英社
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