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大地に根ざすバッハ (周防亮介 東博でバッハ vol.60 東京春祭) [コンサート]

素晴らしいバッハの無伴奏でした。

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久しぶりに聴く周防亮介さん。振り返ってみると前回聴いたのはちょうど10年前。新進若手というか、まだ、東京音大付属に通う高校生でした。今や新人登竜門として知られる紀尾井ホールでの『明日への扉』の記念すべきシリーズ第1回のコンサートでした。それから立て続けに、朝日カルチャーセンターや東京音大の公開レッスンなどに通ったのは、やはり、その才能にぞっこんだったからです。

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当時は、中性的な不思議な雰囲気の青年という感じでしたが、その後、ずんずんと女性らしくなっていきます。その一方で、ヴァイオリン奏者としての堂々たる風格はさらに深みがつき演奏の力強さが増していったという気がしていました。

その力強さを改めて実感したのがこの夜のバッハの無伴奏。

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法隆寺宝物館エンタランスホールで聴くのも久しぶり。もちろん音楽ホールではないので電車の走行音など外部のノイズも入り込む。堅い壁とガラスに反響する残響の長さは特筆すべきもので、天井の高さ、長手方向が極端な長さは、まるで教会のよう。そこに100席ほどの折りたたみのパイプチェアが並べられているだけ。バッハだからこその会場です。

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最初のプレリュードの激しい下降音型の開始。その途端に、隣の我がパートナー殿が居住まいを正す気配を感じました。普段は何かと辛口で斜に構えたことを言ううるさ型ですが、この夜は久々に上気した様子。それほどに鮮烈な出だしで、それは会場の響きというよりも急速なパッセージの左指と右手のボーイングがともにパワフル。音量は大きく、音色は輝かしい。そのことにも驚きます。

休憩時に、パートナー殿がいささかうわずった声で「楽器は何かしら?」と聞くので、あわててググッてみると、1678年製ニコロ・アマティとのこと。ストラディバリより一世代前のオールドの名器がこれだけの音量と輝かしさでもって鳴るのを目の当たりにしたのは初めてで、そのモダンな音色が意外にさえ思えたほどです。

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この会場でのコンサートのもうひとつの楽しみは、休憩時に1階の展示物も見学できること。飛鳥時代の仏像は小さいながらも鋳造の鮮やかさとその数の多さに目を瞠る思いがします。はるかに遠い時代に遡る朝鮮半島との深い縁も感じさせる。

最後のシャコンヌは、ほんとうに圧巻でした。

10年前の公開レッスンでは、その厳しいことで有名なアナ・チュマチェンコ女史から、

「大地に直接つながっているような音がしないといけない」
「土の底から根がはっているように。上からではなく大地から来るように」
「そうすれば弱音(ソットヴォーチェ)がもっと違って聞こえるはず」

と、何度も叱咤の声を浴びていましたが、このシャコンヌは単に情熱的ということを超えた、まさに大地に根ざすバッハ。久々に熱い感銘を受けたソロ/リサイタルでした。


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東京・春・音楽祭2023
ミュージアム・コンサート
東博でバッハ vol.60 周防亮介(ヴァイオリン)
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ 全曲演奏会 第二夜

2023年3月23日(木) 19:00
東京国立博物館 法隆寺宝物館エントランスホール
(5列目中央通路右 自由席)

J.S.バッハ:
 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006
 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第2番 イ短調 BWV1003
 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004

(アンコール)
 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005 より III. Largo

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