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意気、いまだ剛毅 (堤剛80歳記念チェロ・リサイタル) [コンサート]

堤剛さんは、つい昨年の秋に、聴いたばかり。

その艶やかで雄渾な演奏を堪能しましたが、何よりも感動させられたのは小さなコンサートサロンが30年の活動に終止符を打つというその記念のサンクス・コンサートにかけつけ、コロナ感染対策の制約で60人ほどに絞られたファンの前で語った「ここでのサロンコンサートは、まさに歴史を作った」という熱いスピーチでした。

まさに日本のクラシック音楽演奏家の重鎮ともいうべき存在ですが、ちいさな会場にもかかわらずいとわず駆けつけ、愛器モンタニャーナで大公トリオなどベートーヴェン中期の傑作の堂々たる演奏を聴かせてもらえたのは感動的でした。

だから「80歳記念」と言われても少しも驚きません。むしろ、その円熟と衰えを知らぬ剛毅な演奏に期待が膨らむばかり。しかも、ピアノは河村尚子さん。

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もうひとつの楽しみは、以前からぜひ一度は訪れてみたかった軽井沢の大賀ホールでした。

大賀ホールは、駅から徒歩数分のところにあります。コンサートまではだいぶ時間があるので久しぶりの軽井沢の街を散策することに。少し風は強かったのですが青空が広がる気持ちのよい高原の春の陽気。

連休前でしたので、通りの人はまばらでしたが、さすがに旧軽井沢銀座通りは人混み。外国人もずいぶんと戻ってきたようです。それを尻目に向かったのは聖パウロカトリック教会。

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高崎の群馬音楽センターと同じくアントニン・レーモンドが設計した教会は尖塔が印象的で、中にはいると木がむき出しのエックス型のトラス構造がまず目に入ります。その簡素で暖かい風味のなかに朴訥でひたむきな信仰心がしっかりと息づいている気がします。

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堀辰雄の「風立ちぬ」にも登場しますが、堀辰雄は自身の随筆「木の十字架」のなかでポーランド侵攻の翌日にこの教会で故国の無事を祈っているポーランド人の少女を目撃したことを書いています。

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五角形のステージを囲い込むような軽井沢大賀ホールにも、そういう木の暖かみがあります。ステージを見下ろすような二階の奥は横木に腰掛けるだけの立ち見席になっていて、それは寄贈者であるソニーの大賀典雄が若者のために安価な席をと望んだものなのだそうです。この日もステージ真上の席に何人か学生風の若いひとが座っていました。

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音響は柔らかく残響も長めですが、思っていたよりはずっと音はクリアです。1階席中央Cブロックが大きく平土間になっています。その8列目ほぼ中央の席を取りましたが、聴いた直感ではこのホールの最良の席は1階両脇の少し高くなっているA、Bブロックの最前列のようです。何となくサントリーホールと似たようなところがあります。

ベートーヴェンで始まったプログラムですが、R.シュトラウスのソナタの凜々しい叙情が面白く、それだけでも堤さんのプログラムの鮮度の高さに感心したのですが、それはほんの序の口。前半の最後は、日本人作曲家の新作。プログラム末尾には堤さんの日本人作品世界初演リストがずらり。堤さんは必ずリサイタルには同郷の音楽家の作品を取り上げるように心がけているのだとか禅僧が深遠な問答を切り結ぶような曲はなかなかのものでした。

後半は、プロコフィエフとマルティヌー。80歳を迎えた老大家とも思えぬ意欲的なプログラムに改めて驚いてしまいます。しかもプロコフィエフの実に溌剌とした音楽は演奏技巧の高度さをはるかに超えた多彩な音楽。最後のマルティヌーは、この作曲者にしてはとてもわかりやすく、変奏曲らしい興奮の高まりで魅了してくれる素晴らしい演奏。

河村さんのピアノが、これまた、素晴らしい。見事なまでの音量バランスでチェロを引き立てつつも、自分の出番となると実に細やかで美麗な音色で華とばかりに咲き誇り香り立つ。そのピアノのタッチの心地よさが、堤さんの深い艶のあるチェロと素晴らしいマリアージュ。

さすがに汗ばんだお顔には疲れがうっすらと影をさしたように思えたのですが、満面の笑みをたたえなが、何と2曲もアンコール。そのラヴェルでは、またまた河村さんが何とも言えぬエキゾチックな色香を漂わせ、そっちの方もノックアウトでした。



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堤 剛 80歳記念チェロ・リサイタル
2023年4月23日(日) 14:00
軽井沢 軽井沢大賀ホール
(1階 C-H列26番)

堤 剛 (チェロ)
河村尚子(ピアノ)

ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 op.102-1
R.シュトラウス:チェロ・ソナタ ヘ長調 op.6
権代敦彦:無伴奏チェロのための“Z”ゼータ op.186(2022)~堤春恵委嘱作品~

プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 op.119
マルティヌー:ロッシーニの主題による変奏曲 H.290

(アンコール)
ラヴェル:ハバネラ形式の小品
カサド:愛の言葉
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