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芸劇のオルガンが全て解るリサイタル (石丸由佳-名曲リサイタル・サロン) [コンサート]

昼前の1時間だけのリサイタル・シリーズ。

この日は、オルガニストの石丸由佳さんを迎えて、東京芸術劇場コンサートホール備付けの巨大パイプオルガンをしゃぶり尽くすというもの。

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先日、専属オルガニストに新たに就任した徳岡めぐみ、ジャン=フィリップ・メルカールトのお二人の就任記念コンサートで聴いたばかりでしたが、今回は、石丸さんの解説がとても面白く、あっという間の1時間でした。

芸劇のオルガンは、両面にふたつの様式のオルガンが備えられていてそれがどんでん返しのように回転するというのが自慢。前回のコンサートでは、3つのタイプのオルガンを弾き分けての演奏会でしたが、今回の解説と演奏で、実は4つのタイプがあるということを初めて知りました。4つを弾き分けて、しかもとても詳しくわかりやすい説明をされて、ぴったり1時間に納まってしまう。その準備の用意周到さにも感心してしまいました。

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オルガンといえばバッハ…ということでまず一曲目はバッハ。

これは(Ⅰ)バロック様式のオルガンです。私たちがオルガンと言われて一番馴染んでいる音色ではないでしょうか。

芸劇のオルガンは、コンサートホールのパイプオルガンとしても規模は屈指のもの。しかもステージ上方に堂々と据えられているという点でも世界に誇れるオルガンです。席が幸運にも中央だったので、その響きの広がりの大きさ、左右のステレオ感覚を堪能しました。

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次に、ルネサンス様式オルガンに切り換えます。気道を切り換えるスイッチがあって、マイクをかざして切り換えの音まで聞かせてくれました。ピッチ(音高)が違っていて、現代オルガンはA=442Hzですが、バロックは、半音低いA=415Hz、一方のルネサンスは逆に高くてA=460Hz。音程(音律)もそれぞれ違っていて、現代は平均律でルネサンスはミーントーンでバロック音律とも違います。これも実際に、音階や和音を弾いて聞かせてくれます。実際に音律の違いを、その場で切り換えて比較体験するのは初めてです。

スウェーリンクによる「涙のパヴァーヌ」では、テーマとそれに続く変奏曲のひとつひとつをシングルのパイプ(ストップ)で弾いてくれます。それぞれの音調や雰囲気の違いがよく聴き取れます。ルネサンス様式は、中央のパイプ群だけの音になり、その素朴な響きがとてもよく似合います。

さらに、バロック様式に戻してバッハを二曲。そして、いよいよオルガンの反転です。左右中央の三ブロックのパイプが、それぞれに回転していきます。所要時間は約2分。

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反転したところで、直前にバロック様式で弾いた「主よ、人の望みの喜びよ」を、今度はモダン様式オルガンで弾いての比較です。

この曲は、オブリガート音型が広く親しまれていて、元となるコラール旋律はずっとペダル鍵盤の低音で奏されていてピアノ編曲などでは気づきにくいのですが、こうやって巨大なパイプオルガンではそれが明瞭に捉えることができます。そのことに気づくと、その帯域の広さ、低音音域の質量感は格別なものだと感じます。それだからこそ、バロックとモダンの違いがとても印象的。何と言ったらいいのか表現が難しいのですが、バロックは典雅であって素朴、モダンは凜とした佇まいを感じます。どちらがどうかと言われると、モダンの方がしっとりと違和感なく感じるのはピアノ編曲版が耳に馴染んでいるからでしょうか。

今回初めて聴けたのは、フランス古典様式のオルガン。

「フランス古典」というのは、ルイ14世が君臨した時代の音楽のこと。その代表的な作曲家であるF.クープランのオルガン曲。チェンバロではよく聴くのですが、オルガンは初めて。テノール音域のパイプで朗々と詠われる旋律とペダルをベースにした和声の対比がとても印象的。フランス古典というと、こういう深々とした響きと口跡の歯切れのよい旋律線や跳躍の対比が美しい。オルガンの音色にもその特色がよく感じられます。

最後は、モダンオルガンで「宇宙戦艦ヤマト」のテーマとシャルル=マリー・ヴィドールという20世紀フランスの作曲家の現代曲。このスケールの大きさには圧倒されました。

東京芸術劇場コンサートホールのオルガンは、こんなに素晴らしかったのかと改めてびっくり。とにかくステージ正面にあって、その音量やホール全体に行き渡る響きも素晴らしい。様式の多様性ということでも独自のものがあります。もっともっとこれを活かした公演があってよいと思います。

シンフォニーホールのオルガンとしては、国内はもとより、ベルリンのフィルハーモニーなど海外のオルガンと較べても断然素晴らしいオルガンだと思いました。このオルガンの素晴らしさを痛感できた1時間でした。同道の連れ合いも大興奮でした。



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芸劇ブランチコンサート
名曲リサイタル・サロン
第27回 石丸由佳(オルガン)
2023年11月5日(水) 11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階M列20番)

石丸 由佳(オルガン)

八塩圭子(ナビゲーター)


J.S.バッハ:前奏曲とフーガ ホ短調BWV533(Ⅰ)
J.P.スウェーリンク:涙のパヴァーヌ(原作:J.ダウランド)(Ⅱ)
J.S.バッハ:高き天よりわれは来たれりBWV738(Ⅰ)
J.S.バッハ:カンタータ147番より「主よ、人の望みの喜びよ」(Ⅰ)

J.S.バッハ:カンタータ147番より「主よ、人の望みの喜びよ」(短縮版)(Ⅲ)
F.クープラン:「修道院のためのミサ」より「聖体奉挙」(Ⅳ)
宮川泰:「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」より「白色彗星」(Ⅲ)
C.M.ヴィドール : オルガン交響曲第5番より「トッカータ」(Ⅲ)

(使用オルガン)Ⅰバロック Ⅱルネサンス Ⅲモダン Ⅳフランス古典

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