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ウィーン国立歌劇場『フィデリオ』 (ウィーン&ブダペスト音楽三昧 その4) [海外音楽旅行]

ブダペストからウィーンへ。今日はその移動の日。

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鉄道にして約2時間半。ブダペスト西駅を出発。年初来のヨーロッパ難民危機の騒動をTVで毎日のように見ていた私たちは、ちょっと怖じ気ついて事前にネットで高めのコーチ席を予約していました。あんな騒動は嘘のようで、実に快適な旅でした。

昼前にウィーン中央駅に到着。

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さっそくホテルを目指します。が…その前に、先ずはウィーン楽友協会のチケット窓口に立ち寄ります。ネットで予約していたチケットを受け取ります。IT時代となり海外からも気楽にチケット予約ができるようになりましたが、プリンターで印刷したバーコード付きのコピーでそのまま入場できるEチケットから、チケット引換まで様々。ブダペストではEチケットですが、ウィーンでは現地で事前にチケットに引換が必要です。ロンドンのウィグモアホールは国内郵送が前提で、先進国ほど観光に関心が薄いほど遅れています。代金決済に制約の多い日本など、海外の音楽ファンにとってはとても遅れた国との印象があるでしょう。東京など、アジアからのインバウンドの音楽ファンから見ればまだまだ不便なのです。

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ウィーン国立歌劇場を一回り。ようやくここに来たぞという感激もひとしお。

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そのオペラ観劇までは、まだまだ時間があるので、オペラから徒歩5分ほどのホテルにチェックインして市内観光に出かけます。

観光のテーマは、《ウィーン分離派》。

地下鉄でシェーンブルン宮殿を目指しますが、私たちの目的は宮殿ではありません。ウィーンの近代建築や20世紀初めの都市計画を主導したオットー・ワーグナーによる《ホーフパビリオン》。駅出口で掃除していたおばちゃんに聞いてみましたが、英語が話せないこともあって、皆目、話しが通じません。

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仕方なく駅上の跨線橋から周囲を見渡すと「あったー!」。小さな駅舎ですが宮殿を訪れる皇族のための専用駅舎。宮殿方向の喧噪をよそに、その小さな宝石箱のような駅舎の屋内は私たちのほかは誰もいませんが、アールヌーヴォーの内装が鮮やか。

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受付の女性と話すと、あまり人は来ないとのこと。土日しか公開していないということもあってポピュラーではないのでしょうがもったいないことです。

観光はほどほど。あくまでも音楽優先なのでホテルに戻って一休み。いよいよウィーン国立歌劇場見参です。

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内装はさすがに立派で豪華。とても伝統と歴史を感じさせるものですが、すでにブダペストの歌劇場を体験しその興奮醒めやらぬ私たちにとっては少々質実にさえ見えます。正面のステアケースやホワイエなどはともかく、こと歌劇場内は意外に質素。

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私にとって初のウィーンオペラ体験となった席は2階ボックス席の最前列。

中央寄りの上席でとても眺めが良い。ボックス席は何となく偉くなったようで気分がよい。でも、これが必ずしも最上席というわけではないのです。このオペラハウスの座席料金はけっこう細かく分かれており、よく見ると実によく出来ていて、つまりは料金通りなのです。このボックス席は上から二番目の料金です。

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いよいよ開幕。その序曲が開始されたとたんに、ちょっとした既視感にとらわれました。

響きがデッド。以前、プラハの国立劇場で味わった軽い失望感。ボックス席というせいもあるのでしょうが、つい直前のブダペスト歌劇場にも較べてしまいますが、世界最高峰にしてはいささか寂しいアコースティック。初体験と盛り上がっていた気持ちがちょっと裏切られたような気分がしました。

ステージもとても地味。

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演出はオットー・シェンク。手は加えられてきたのかもしれませんが、1970年代の演出です。あまり前衛的、現代的な演出は好みではない私でも、いまさらシェンクでもないだろうとつい思ってしまいます。

指揮者のペーター・シュナイダーは手堅い老練な職人指揮者。初台の新国立劇場でも何度か聴いている。奇しくもこの後で観劇する「ローエングリン」は、2012年に話題のフォークト主演のプロダクションではこの人がタクトを握っていて、その時は東フィルの秀演を引き出して興奮した。けれども、東フィルならいささかドタバタしても目をつぶったが、天下のウィーン歌劇場管弦楽団が相手となると、いささか紋切り型の楽想とぶつ切り気味の響きに不満を感じてしまう。

第2幕の牢獄の場から次に場面転換するところで、例によって「レオノーレ序曲第3番」が奏される。この慣習は、マーラーが始めたと言われる。場面転換に時間がかかった時代ならともかく、今の技術なら転換はいとも簡単だろう。これがウィーンの伝統といえば伝統だろうがあまりに保守的すぎる。序曲が終わったところで聴衆はやんやの大喝采。隣の家人も「うわーぁ!」と興奮のため息を上げているけれど、私は少々鼻白む思いがしました。

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ピツァロ役のエギルス・シリンスは、つい先日の東京春祭「ジークフリート」でもその単調なヴォータンに残念賞を贈呈したばかりだが、ここでもその単調ぶりを確認した。オペラに限らないことだが、悪役が悪役らしくないと全体がちっとも面白くない。ヒーローというものは悪の闇が大きく深く暗いほど白く輝くものなのだ。

フロレスタン役のロバート・ディーン・スミスも、昨年の東京春祭のリングに出演していました。あの時は、ワルトラウト・マイヤーがサプライズの代役を務めたジークリンデの影に隠れて印象の薄いジークムントだったのですが、こちらでも印象が薄い。フロレスタンは牢獄の場面がすべてで目立ちにくい立場ですが、やはりもともと地味なひとなのだと思うのです。

タイトルロールのアレクサンドラ・ロビアンコがよかった。若くて凜とした一途な女性を歌い上げて好演。ズボン役といような色気は、ベートーヴェンではちょっと違うのでしょう。そういうソプラノではなく貞淑で正義感に富んだレオノーレにはうってつけのひとだと思いました。

「さすがウィーン!」という気持ちと「なんだこんなものか」といういささかウィーンの保守性に食傷する気持ちが交錯する、微妙な後味の残った初体験だったのですが…

その後味は翌日には吹っ飛んでしまいます!

(続く)


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ウィーン国立歌劇場 ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」
2016年5月7日(土) 19:00
ウィーン ウィーン国立歌劇場

2016/5/7
Fidelio
Ludwig van Beethoven

Peter Schneider | Dirigent
Otto Schenk | Regie
Gunther Schneider Siemssen | Buhne nach Entwurfen von
Leo Bei | Kostume

Egils Silins | Don Pizarro
Robert Dean Smith | Florestan
Alexandra LoBianco | Leonore
Lars Woldt | Rocco
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