プロミスト・ランド (GIPラボ訪問記《後編》 仙台オーディオ探訪 その6) [オーディオ]
GIPラボを訪ねて、持参したCDを聴かせていただいた…というお話しの続きです。
最初に聴かせていただいたのはGIPスピーカーの最高峰とも言えるGIP-7396。
http://www.gip-laboratory.com/seihin7396system.html
鈴木社長のオーディオの原点は、自分がステージに立っていて聴くサウンド。
自身が音楽家なのでそういう立ち位置で聴いてきたからだそうです。クラシック好きなオーディオマニアは、よく2階席最前列からステージを俯瞰するなどとよく言いますが、もちろんヴィンテージユニットはそういう甘めのサウンドも得意ですが、そんな遠くて薄い音では満足しない。
すべてのシステムが、低域は20Hzまで再生できているそうです。アンプは提携している韓国製の真空管アンプ。100dB越えの大爆音にも余裕で耐えるとか。「ほんとうの生の音はそんな音量では鳴っていないのですが、オーディオというのは時としてそれを求めるひともいらっしゃいますからね。」とニヤリ。
アラウのピアノが眼前に現れ、その巨大なセンター音像にもかかわらずスピーカーの横幅以上にオーケストラは拡がって強靱なトゥッティを鳴らします。それでいてアラウのタッチは強く美しく、オーケストラの細部までくっきりと描出する。
このアラウの「皇帝」について、「これはこの曲のなかでも最高の演奏のひとつですね。会場のドレスデン・ルカ教会は、響きが豊かで第2番など当初の録音は響き過ぎでしたが、この第5番では録音も最高です」と、これをかけた私の心の内を見透かすようなことを仰って喜ばせていただきました。
二番目にお聴かせいただいたのは、ウェスタンの傑作WE-555を忠実に再現したドライバーにスクリュースロートの巨大なホーンを組み合わせたユニットを中心にしたシステム。
ここでかけていただいたムターの巨大な音像にも度肝を抜かれました。ウィーン・フィルはさらに広大でソロを囲いこむ。とてつもないスケールの大きさです。そういう音像の大きさにもかかわらず、ムターの繊細で艶麗な音楽の動きがよく見えるのは驚きです。
「先日の地震でちょっと狂っているかもしれません。」という、さりげない鈴木社長の言葉にちょっとはっとしました。他のシステムは正確でしたが、このシステムだけはソロの高域の定位が不安定でした。そのように率直に申し上げると、「このシステムはツィーターが動きやすいんです。」とさらり。何より驚いたのは、こんなモンスターシステムでもスピーカーのアライメント、左右の焦点を厳密に合わせておられるということ。
ウーファーは左右を2対、合計4本のユニットを向かい合わせにしたセンターウーファー的なエンクロージャー。これでも全体的な音像のパースペクティブは少しも損なわれていません。
「ピアノの音もオルガンの音も、その頭の一瞬をカットしてしまうと、どちらの音かわからなくなってしまう。」と鈴木社長。トランジェントのこと。楽器の“らしさ”(個性)を決めるのはアタック部分。ここがちゃんと再生できているかどうかが極めて大事で、それはシステムの立ち上がり/立ち下がり、スピードの問題になります。このことは私も日記に書いたことがあります。WEレプリカの励磁型ドライバーは、この点で理想といっても良い究極のサウンドなのです。
ここで、Harubaruさんから聴いたばかりだからと幸田浩子さんもかけていただきました。
これにはもう参りました。これが大正解というべき音像定位です。システムによってあれこれ変わる弦楽器パートの定位ですが、逆に、この見事な楽器配置の再現とその奥行き感で、自分が持っていたイメージで正解だと自信がつき、むしろ、ほっとしたほど。幸田さんの高音フォルテの部分もいささかも力みがなく透明感をいささかも失わず伸びきっているのは驚異的。
鈴木社長がこれも聴いてみてくださいとかけたのは、あの「カンターテドミノ」から《Cantique de Noel (O Helga Natt)》です。
ヨーロッパのオーディオショーでこれをかけると聴いている人々が軒並みボロボロと涙を流してしまうそうです。コーラスの響きも濁らず響きが豊かで、パイプオルガンの響きは臨場感満点。20Hzの低域まで完璧に鳴らし切るそうです。中央のソプラノソロの高さはコーラスとほぼ同じ位置で前面に定位し、その位置は曲の繰り返しでも変わりません。こういう高さの表現は、小型スピーカーを一般家庭のスペースと鳴らすのとではちょっと違うようです。
三番目は、その反対側に設置された、GIPのなかでも一番の人気システム-GIP-9501。
ウッドホーンとツインウーファーのエンクロージャーが美しい。そして真鍮製の金色のトゥーターが何とも艶めかしく、とにかく見た目がハンサムなシステムで人気が高いというのもよくわかります。
特別仕様なのか、ツィーターがもう1本追加されてかなり外向きにセットされています。恐らく高域の指向性を確保し、空気感やステージを大きく広げる意図で追加されたのだと思います。
しかし、このシステムの魅力はやはりそのサウンドです。広い邸宅の大広間であれば納まりそうなサイズは、他の巨大システムに較べると個人オーナー向きとも言えますし、何よりも引き締まった美音が素晴らしい。
ヴィヴァルディの4つのヴァイオリンのための協奏曲は、ハイエンドシステムだからと言っても簡単には鳴ってくれない、いわゆる「羊の皮を被ったオオカミ」的ソフト。それをこれほど楽々と鳴らし切ったシステムは初めて。鮮度の高い生々しさと、楽器の1台1台が見えるような存在感と分解能と、イタリアの弦楽合奏団らしい輝かしく艶やかな音色がほんとうに心地よい。かなりの音量ですが、大きなステージで展開し、肥大した不自然さを少しも感じさせません。
もうひとつの、広い応接間といった部屋でも聴かせていただきました。写真を撮り忘れてしまいご紹介できないのが残念ですが、これも信じられないほど現代的なハイエンドサウンドを聴かせてくれます。
これなら家庭での導入は現実的かなと思わせるサイズですが、それでも私にとって聴き慣れている秋葉原・アムトランスの試聴室のGIPシステムよりも大きいそうです。
ここでは、ヘルゲ・リエン・トリオのテイク・ファイブをかけていただきました。ベルやウィンドチャイム、あるいはアンティークシンバルなのか多彩な打楽器を叩き分けた金属打楽器が実に澄み切った美音に響く。しかも、これだけの音量でトリオのアンサンブルが鳴らされているなかで、その金属音が美麗に揺れているのがはっきりと聴き取れます。シンバルやハイハットもリアルで、これほど金属打楽器をリアルに鳴らすシステムはいままで聴いたことがありません。ピアノの低域のトリックも目に見えるようで決してベースと混同することもありません。もちろんそこから始まるベースの強烈なボーイングの迫力も満点。
ほんとうにオーディオというものの贅沢さ、醍醐味を満喫させていただきました。お茶の間オーディオの私としてはとても手の出るものではありませんが、ここで学び取れることは数えきれません。何よりも、目標、理想とでも言えるサウンドを耳に焼き付けることができました。もちろんウェスタンというものへの畏敬の念がさらに拡がる。まさにオーディオ好きにとってはいつかはたどり着きたいプロミスト・ランド。
気さくに受け入れていただき、歓待していただいた鈴木社長にも、ご案内いただいたM1さんに大感謝です。
かみのやま温泉駅から新幹線に乗り込み、シートに背を深く沈めると何だか夢見心地。本当に充実した楽しいオーディオ行脚の二日間でした。お誘いいただいたHarubaruさんにも最後になりましたが感謝です。
(仙台オーディオ探訪 終わり)
最初に聴かせていただいたのはGIPスピーカーの最高峰とも言えるGIP-7396。
http://www.gip-laboratory.com/seihin7396system.html
鈴木社長のオーディオの原点は、自分がステージに立っていて聴くサウンド。
自身が音楽家なのでそういう立ち位置で聴いてきたからだそうです。クラシック好きなオーディオマニアは、よく2階席最前列からステージを俯瞰するなどとよく言いますが、もちろんヴィンテージユニットはそういう甘めのサウンドも得意ですが、そんな遠くて薄い音では満足しない。
すべてのシステムが、低域は20Hzまで再生できているそうです。アンプは提携している韓国製の真空管アンプ。100dB越えの大爆音にも余裕で耐えるとか。「ほんとうの生の音はそんな音量では鳴っていないのですが、オーディオというのは時としてそれを求めるひともいらっしゃいますからね。」とニヤリ。
アラウのピアノが眼前に現れ、その巨大なセンター音像にもかかわらずスピーカーの横幅以上にオーケストラは拡がって強靱なトゥッティを鳴らします。それでいてアラウのタッチは強く美しく、オーケストラの細部までくっきりと描出する。
このアラウの「皇帝」について、「これはこの曲のなかでも最高の演奏のひとつですね。会場のドレスデン・ルカ教会は、響きが豊かで第2番など当初の録音は響き過ぎでしたが、この第5番では録音も最高です」と、これをかけた私の心の内を見透かすようなことを仰って喜ばせていただきました。
二番目にお聴かせいただいたのは、ウェスタンの傑作WE-555を忠実に再現したドライバーにスクリュースロートの巨大なホーンを組み合わせたユニットを中心にしたシステム。
ここでかけていただいたムターの巨大な音像にも度肝を抜かれました。ウィーン・フィルはさらに広大でソロを囲いこむ。とてつもないスケールの大きさです。そういう音像の大きさにもかかわらず、ムターの繊細で艶麗な音楽の動きがよく見えるのは驚きです。
「先日の地震でちょっと狂っているかもしれません。」という、さりげない鈴木社長の言葉にちょっとはっとしました。他のシステムは正確でしたが、このシステムだけはソロの高域の定位が不安定でした。そのように率直に申し上げると、「このシステムはツィーターが動きやすいんです。」とさらり。何より驚いたのは、こんなモンスターシステムでもスピーカーのアライメント、左右の焦点を厳密に合わせておられるということ。
ウーファーは左右を2対、合計4本のユニットを向かい合わせにしたセンターウーファー的なエンクロージャー。これでも全体的な音像のパースペクティブは少しも損なわれていません。
「ピアノの音もオルガンの音も、その頭の一瞬をカットしてしまうと、どちらの音かわからなくなってしまう。」と鈴木社長。トランジェントのこと。楽器の“らしさ”(個性)を決めるのはアタック部分。ここがちゃんと再生できているかどうかが極めて大事で、それはシステムの立ち上がり/立ち下がり、スピードの問題になります。このことは私も日記に書いたことがあります。WEレプリカの励磁型ドライバーは、この点で理想といっても良い究極のサウンドなのです。
ここで、Harubaruさんから聴いたばかりだからと幸田浩子さんもかけていただきました。
これにはもう参りました。これが大正解というべき音像定位です。システムによってあれこれ変わる弦楽器パートの定位ですが、逆に、この見事な楽器配置の再現とその奥行き感で、自分が持っていたイメージで正解だと自信がつき、むしろ、ほっとしたほど。幸田さんの高音フォルテの部分もいささかも力みがなく透明感をいささかも失わず伸びきっているのは驚異的。
鈴木社長がこれも聴いてみてくださいとかけたのは、あの「カンターテドミノ」から《Cantique de Noel (O Helga Natt)》です。
ヨーロッパのオーディオショーでこれをかけると聴いている人々が軒並みボロボロと涙を流してしまうそうです。コーラスの響きも濁らず響きが豊かで、パイプオルガンの響きは臨場感満点。20Hzの低域まで完璧に鳴らし切るそうです。中央のソプラノソロの高さはコーラスとほぼ同じ位置で前面に定位し、その位置は曲の繰り返しでも変わりません。こういう高さの表現は、小型スピーカーを一般家庭のスペースと鳴らすのとではちょっと違うようです。
三番目は、その反対側に設置された、GIPのなかでも一番の人気システム-GIP-9501。
ウッドホーンとツインウーファーのエンクロージャーが美しい。そして真鍮製の金色のトゥーターが何とも艶めかしく、とにかく見た目がハンサムなシステムで人気が高いというのもよくわかります。
特別仕様なのか、ツィーターがもう1本追加されてかなり外向きにセットされています。恐らく高域の指向性を確保し、空気感やステージを大きく広げる意図で追加されたのだと思います。
しかし、このシステムの魅力はやはりそのサウンドです。広い邸宅の大広間であれば納まりそうなサイズは、他の巨大システムに較べると個人オーナー向きとも言えますし、何よりも引き締まった美音が素晴らしい。
ヴィヴァルディの4つのヴァイオリンのための協奏曲は、ハイエンドシステムだからと言っても簡単には鳴ってくれない、いわゆる「羊の皮を被ったオオカミ」的ソフト。それをこれほど楽々と鳴らし切ったシステムは初めて。鮮度の高い生々しさと、楽器の1台1台が見えるような存在感と分解能と、イタリアの弦楽合奏団らしい輝かしく艶やかな音色がほんとうに心地よい。かなりの音量ですが、大きなステージで展開し、肥大した不自然さを少しも感じさせません。
もうひとつの、広い応接間といった部屋でも聴かせていただきました。写真を撮り忘れてしまいご紹介できないのが残念ですが、これも信じられないほど現代的なハイエンドサウンドを聴かせてくれます。
これなら家庭での導入は現実的かなと思わせるサイズですが、それでも私にとって聴き慣れている秋葉原・アムトランスの試聴室のGIPシステムよりも大きいそうです。
ここでは、ヘルゲ・リエン・トリオのテイク・ファイブをかけていただきました。ベルやウィンドチャイム、あるいはアンティークシンバルなのか多彩な打楽器を叩き分けた金属打楽器が実に澄み切った美音に響く。しかも、これだけの音量でトリオのアンサンブルが鳴らされているなかで、その金属音が美麗に揺れているのがはっきりと聴き取れます。シンバルやハイハットもリアルで、これほど金属打楽器をリアルに鳴らすシステムはいままで聴いたことがありません。ピアノの低域のトリックも目に見えるようで決してベースと混同することもありません。もちろんそこから始まるベースの強烈なボーイングの迫力も満点。
ほんとうにオーディオというものの贅沢さ、醍醐味を満喫させていただきました。お茶の間オーディオの私としてはとても手の出るものではありませんが、ここで学び取れることは数えきれません。何よりも、目標、理想とでも言えるサウンドを耳に焼き付けることができました。もちろんウェスタンというものへの畏敬の念がさらに拡がる。まさにオーディオ好きにとってはいつかはたどり着きたいプロミスト・ランド。
気さくに受け入れていただき、歓待していただいた鈴木社長にも、ご案内いただいたM1さんに大感謝です。
かみのやま温泉駅から新幹線に乗り込み、シートに背を深く沈めると何だか夢見心地。本当に充実した楽しいオーディオ行脚の二日間でした。お誘いいただいたHarubaruさんにも最後になりましたが感謝です。
(仙台オーディオ探訪 終わり)
オーディオの楽園 (GIPラボ訪問記《前編》 仙台オーディオ探訪 その5) [オーディオ]
仙台オーディオ探訪ツアーの続きです。
M1おんちゃんさんの別荘でのオフ会の翌日、そのご案内で蔵王をひとめぐり。
子供の頃は、よく蔵王にスキーに連れて行ってもらったので懐かしい。遠刈田から蔵王エコーラインを上って、蔵王刈田岳山頂に行きました。
駐車場から10分ほどのお手軽登山ですが火口湖である御釜を眼下に望む眺望が素晴らしい。小学生の頃に父に連れられて登った思い出深い場所で、車なんかなかった時代ですから疲れ果てた表情で写っているセピア色の写真がいまも思い出のアルバム帳にあります。
そこから山形県側に下っていくと、そこはすぐに上山市。GIPラボ(G.I.P.Laboratory)は、その町の中心にあります。M1さんは以前に訪問されたことがあってすでに顔なじみだそうです。そういうご紹介もあって、鈴木伸一社長の大歓待を受けました。
昼食は、山形名物の冷やしラーメン。冷やし中華ではなくて「ラーメン」。スープも何もかも冷たい独特の味わいで初めてでしたがおいしかった。
鈴木社長はとても気さくな方。気難しい職人気質の人を想像していたら全然違っていました。高校時代に一念発起しピアノをにわか勉強して東京芸大楽理科に合格。音楽評論家の吉田秀和氏の書生になったり、音楽評論の代筆仕事で生活費を稼ぎ、時には銀座のピアノバーでピアノ伴奏をしたりと何でもやったそうです。その後、中国の大連に派遣されて、音楽院の創設に尽力されたとか。まさに波瀾万丈の人生でいらっしゃる。
エンジニアというより、そもそもは、音楽家。それと同時に若い頃から熱烈なオーディオ好きだったそうです。それが、故郷に戻られてGIPラボの事業を始められた一番の理由というわけです。
GIPは、ウェスタン(Western Electric)の励磁式スピーカーのレプリカということで知られています。確かにHPには、ウェスタンの歴史が熱く語られていますが、よく読むと結末には真に『オーディオの原点であり頂点』とあります。現代オーディオの頂点としてのユニット作りやシステムを追求していて、たまたまその究極として行き着いたのがウェスタンの励磁式スピーカーなのだそうです。「いわゆるウェスタンのファンの方に聴いてもらうと、かえって、「え?違う…という顔をされます」「時にはこれはウェスタンじゃないとまで言われてしまう」と笑っておられました。
実際に、オリジナルのユニットとGIPのレプリカと両方を見せてもらいました。オリジナルは経時劣化でボロボロだし、修理の手が入っています。こうしたヴィンテージものはオリジナルとは別物の音がするとか。レプリカといっても最新の工作技術で精密そのもの。オリジナルの時代には職人の手溶接でしか作れなかったものも一体削り出しで製作されています。まさにホンモノ以上のコピー。
磁性体は、純鉄とコバルトの1:1の合金パーメンジュールが使用されています。ユニットのひとつを持ち上げてごらんというので取っ手を両手で持ち上げようとしましたが上がらない。50kg弱もあるそうです。レプリカというものには、コバルトを30~40%しか入れていないまがい物の合金を使っているものあるそうです。GIPはそういう妥協を許さない。
試聴室は、鈴木社長の家業である眼鏡店に隣接するビル一棟を買い取ったもの。現在、大規模な改修中でしたが、そのフロアをいっぱいに使っていてそこに数台の巨大なスピーカーシステムが四方の壁に設置されています。
持参したCDを聴かせていただきました。
最初は、GIPスピーカーシステムの最高峰とも言えるGIP-7396。
これは凄まじいほど豪放なサウンドでいきなり度肝を抜かれました。
長くなりそうなのでこの続きは続編へ。
(続く)