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普段着の超絶技巧 伊舟城 歩生(芸劇 名曲リサイタル・サロン) [コンサート]

とても若いピアニスト。東京音大の修士課程を終えたばかり。

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先月の芸劇ブランチコンサートで、清水和音さんのピアノの譜めくり役を務めていて、清水さんから呼び止められ、次のリサイタルに出演予定なのでよろしくとの紹介がありました。

ナビゲーターの八塩圭子さんがそのことにふれて、しばし「譜めくり」談義。譜めくりというのは、集中を切るわけにもいかず、けっこう緊張するそうです。ピアニストによってもタイミングが違う。瞬間が好みのピアニストもいれば、一瞬先にめくるのが好みのピアニストもいる。なにより気にするのは伸ばした腕がピアニストの目線をさえぎらないこと。

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譜めくりといえばお弟子さんというイメージがあります。実際、清水和音さんに師事しているわけですし、ちょっとはにかんだような受け答えは確かに書生っぽい。ところが、いざ、ピアノに向かうとその逸材ぶりにはっとさせられてしまいます。

最初のモーツァルトが素晴らしかった。何よりも音がきれい。

それこそハイドンのお弟子さんというかしこまった響きに、モーツァルトらしい透明な音色をのせるのが案外難しい曲。ひそかにモーツァルトの素顔が見え隠れするのだけどなかなかそれを見せようとしないまま進行する。それが終楽章になってぱっと自分が出てくる。そんな若さがとてもきれいなタッチでよく見えてくる。

そこから、一気にラフマニノフの世界に飛躍する。

重く暗い雲が垂れ込めた晩秋のロシアの夕暮れにどーんと沈痛に鳴り響く鐘。八塩さんが「譜面を見ると真っ黒に見える」と言った難曲中の難曲のラフマニノフ。その前奏曲を深い水底に沈む宝石の輝きのように弾きこなし、暗い情感から次第に上昇していき明るい解決へ向かう。そういう選曲もなかなかのものだし、何より技巧のタフなこと。それが見かけによらずにすごい。

最後の「夜のガスパール」もそういう見かけと、演奏の奥底から湧き上がってくる技巧の凄みとのコントラストが際立ちます。この曲を聴くと、すぐにアルゲリッチのLPレコードのジャケットが目に浮かんできてしまいます。あの当時、それほどインパクトのある演奏でした。それを、いま昼前の池袋で普段着の若者が苦もなく弾いている。弾き終えても、疲れもなにも見せず、さっぱりとした表情が何ともさわやかです。

今の日本の若手演奏家は、すごいことになっている…そう感じさせてくれたブランチコンサートでした。


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芸劇ブランチコンサート 名曲リサイタル・サロン
第20回 伊舟城 歩生(いばらき・あゆむ)
2022年9月28日(水)11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階P列21番)

モーツァルト:ピアノソナタ第3番 変ロ長調 K.281

ラフマニノフ:前奏曲「鐘」op.3-2
ラフマニノフ:10の前奏曲 op.23より 第6番 変ホ長調、第8番 変イ長調

ラヴェル:夜のガスパール

(アンコール)
ラフマニノフ:この夏の夜 op.14-5 (アール・ワイルドによるピアノ編)

ピアノ:伊舟城歩生
ナビゲーター:八塩圭子
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