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「憧れのフランス音楽」 (芸劇ブランチコンサート) [コンサート]

今年は、サン=サーンスの没後100年のメモリアル・イヤー。

サン=サーンスといえば、学校の観賞曲だった「動物の謝肉祭」やその中からの「白鳥」とか、あるいはヴァイオリニストがよくお披露目にする「序奏とロンド・カプリチョーソ」、オルガン付の誇大な交響曲とか、よく知られてはいるがいささか俗っぽいものばかりで、オールドファンには評価が低いのかもしれません。

でも、実際はモーツァルトをもしのぐ神童ぶりを発揮し、同じように長寿だったシベリウスとは対照的にアルジェリアで客死する直前まで精力的に活動を続けた。それだけに保守的で時代遅れだと、そういう点でも、斬新で都会的なイメージの近現代《フランス音楽》に属するようにはあまり思われていないようです。

それが、オペラにせよピアノを始めとする器楽曲にせよ、どんどんと評価が高まってきたのは、たぶん1980年代になってからだったのだと思います。個人的にも、ちょうどその頃、たまたま手にした管楽器ばかりのソナタ集の一枚のアルバムが、サン=サーンスが好きになるきっかけでした。

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そう、フランス音楽といえば、管楽器。古典音楽では決して輝かしいスポットライトを浴びることのなかったフルートやオーボエ、クラリネットといった木管楽器こそ、いかにもパリのサロンの雰囲気を醸し出します。

そういう管楽器の名曲がずらり。

管楽器奏者にとっては、学生の頃から何百回、何千回と親しんできた、あたりまえのレパートリーが、多くの聴き手にとってはとても新鮮。初めて聴いてみて、なんで今まで気がつかなかったんだろうとたちまちにその魅力に取り憑かれる。そういうことが、懐かしのあのLPレコード一枚でもあったのです。

いつもはオーケストラのその他大勢で目立たない奏者たちが、こうやってソリストとして次から次へと妙技を尽くし、精妙で洗練された個性あふれる楽曲を次々と披瀝する。ところが演奏している本人たちにとっては、ごくごくありふれた曲目だという、その客席と奏者との間の何とも言えぬギャップがちょっと独特。

面白かったのは、清水和音さんも、そのギャップのこちら側にいたということ。

何と今日のプログラムは、すべて初めて演奏されるとのこと。プーランクなどピアニストにとっても大変な難曲でとても緊張しました…と会場を笑わせます。こうしたフランス作曲家たちのピアノ作品をいままであまり弾いたことがなかったけれど、これからはチャレンジしてみたいとのこと、和音ファンにとっても楽しみです。

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竹山さんのフルートはちょっと細身。フルートは正弦波に近く音がピュアな反面で音色が単調になりがち。一方で、フレージングやブレス、タンギング、唇や口腔の振る舞いといった生身の身じろぎが伝わりやすい。無伴奏の「シランクス」など、そういう音楽の鮮度とか肉体的なところがもう少し伝わってきたらよかった。

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伊藤さんは、先日、日経ホールで元ベルリン・フィルのオーボエ奏者シュレンベルガーさんの来日中止で急遽代役で登場して、その演奏に感服したことが記憶に新しい。とても安定したリードの発音と、倍音に富んだ音色と響きはとても多彩で豊か。今回もまったく同じで、相方の女性の皆さんが素敵なドレスなのに伊藤さんはまるでサラリーマンみたいなスーツ姿。それがかえって名手としての貫禄を感じさせるから不思議。プーランクはともすれば奇矯なまでに異才ぶりが強調されがちですが、穏やかでくつろげるウィットに富んでいました。

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吉村さんは、前回のこのシリーズではちょっと堅かったのですが、今回は素晴らしかった。「N響にも慣れましたか?あのオーケストラは格別ですからね。」という清水さんの質問もどこか意味深。サン=サーンスのソナタの歌い出しなど、とても軽妙で可愛らしい。小柄な吉村さんにぴったり。時に軽く、時に愁いを含み、ある時はとても香り高くゴージャスな響き…と、色彩の吹き分けも見事。これからも微妙なニュアンスを彩るパレットの数を増やしていければと将来が楽しみ。

最後のサン=サーンスの奇想曲を聴くのはまったく初めてでしたが、突き抜けるような高域のハーモニーの美しさは快感で、駆け引きとか主役脇役の出たり引っ込んだりというアンサンブルの楽しさに堪能させられました。これもフルート、オーボエ、クラリネットのメロディ楽器がそろい踏みできるという数少ない曲目で、管楽器を学ぶ学生にとっては、三人寄ればこれしかないというレパートリーなんだそうです。

こうして聴いてみると、サン=サーンスは、管楽器というフランス音楽のエスプリの核心部分でも大変な貢献をしていて、続く世代をリードしていたんだなぁと痛感しました。




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芸劇ブランチコンサート
清水和音の名曲ラウンジ
第31回「憧れのフランス音楽」
2021年8月25日(水) 11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階M列26番)


フォーレ:ファンタジー
(Fl)竹山 愛、(Pf)清水和音
プーランク:クラリネット・ソナタ
(Cl)伊藤 圭、(Pf)清水和音
ドビュッシー:シランクス
(Fl)竹山 愛
サン=サーンス:オーボエ・ソナタ
(Ob)吉村結実、(Pf)清水和音
サン=サーンス:デンマークとロシアの歌による奇想曲
(Fl)竹山 愛、(Ob)吉村結実、(Cl)伊藤 圭、(Pf)清水和音
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