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雅趣と躍動 (国立劇場 舞楽) [芸能]

久しぶりに国立劇場で舞楽を観ました。

久しぶりといっても、これまでは数も限られていて、しかも、武満徹の創作であったり寺社の復活公演だったりしたので、宮内庁雅楽部の正統な形での公演は初めてです。それだけに改めて長い年月をかけて磨かれてきたその伝統の雅趣と絢爛豪華な様式美に心酔う思いがして堪能しました。

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今回は、思うところがあって2階席を取りました。舞楽の様式美を楽しむには、高い位置から見下ろすほうが面白く、また、管楽も音響面だけでなく視覚的に捉えることができると考えたからです。幸い2階席の中央近くの2列目の席が確保できました。おかげでいろいろと気づくことも多く、退屈しませんでした。

舞楽は、「左方」か「右方」のいずれかに配置されて上演されます。舞人たちが左右のそれぞれから登場するというだけでなく、「左方」は中国系の[唐楽]であって「右方」は朝鮮半島系の[高麗楽]と淵源を異にしていて、左右の似たタイプの演目同士を交互に1組として番組を構成します。伴奏の管楽も、左右で異なり、雅楽ではおなじみと思っていた笙(しょう)は「左方」の唐楽にしか用いられないということに今回初めて気がつきました。

太鼓と鉦鼓は、「左方」「右方」共通ですが、左右各々に配置されて、特に巨大な太鼓(落語でおなじみのいわゆる《火焔太鼓》)は、叩く度に切っ先の矛が揺れて大迫力。なるほどこれなら録音再生時の絶対位相も峻別できるかもしれないと思ったほど。

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最初の「還城楽」は、中国西域の胡人が蛇を捕らえて喜ぶ…というもの。中央に運ばれておかれた金色の作り物の蛇を掲げ、もう一方の手には桴(ばち)を持って狂喜乱舞する。一人で舞うものですが、拍子が変則的で面白い。装束もエキゾチックで文様も色彩もど派手、これに奇怪な面相のお面までつけているので興味が尽きません。

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対する「右方」の「白浜」は四人で舞うアンサンブル。装束はいかにも平安貴族風ですが、途中で肩脱ぎになったりとこれまた退屈させません。最初のうちは四人全員が正面向きで踊りますが、途中から後ろ向きと前向きに分かれたり、それを交互に換えたり、時計回りに大輪を作って廻ったりと変化に富んでいます。伴奏もその度に曲調や拍子を換えていくので楽と舞が一体となってとても立体的。

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後半の、「喜春楽」も四人で舞います。こちらではさらに、前後の入れ違いだけではなく対面して鏡映しのように対称的に舞ったりとさらに変化に富んでいます。舞人が登場する場面の音楽は拍節感がありませんが、いざ踊り出すと、やはりダンスですから独特の規則的リズムにのってくる。そういう伴奏の様式にも次第に耳が慣れてきて、楽しさも増してきます。特に、この曲の舞人登場の序での、管楽器が少しずつ追いかけるように細かく重ねていく「退吹(おいぶき)」。拍節が無いのでフーガというよりも、演奏前のオーケストラの無秩序で騒然とした試奏に近く、開演直前の高揚感を連想させてとても面白かった。

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終曲の「納曽利」は、二人で舞う双舞。四人で舞うのも面白いのですが、二人で舞うのも、かえって軽快さと自由度が増し、対角線の動線や背中合わせなど変幻さも増すというのも面白い。装束は、一曲目と同じような武張った派手なもので、面を被るのも同じ。「左方」「右方」それぞれに対照的に同じような装束があるのも意外でした。

かつては、雅楽や舞楽の公演は、歌舞伎などに較べると今も回数も少ないのですが、ずいぶんと機会が増えてきたようです。しかも、この日は満員で入口には長蛇の列ということにも驚きました。お年寄りも若いカップルも子供を連れた家族連れも多く、お客さんも多彩。その盛況ぶりに気持ちが晴れやかになります。



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国立劇場 第90回雅楽公演 「舞楽」
2022年5月28日(土)14:00
東京・半蔵門 国立劇場 大劇場
(2階2列17番)

舞楽

左方 還城楽(げんじょうらく)
右方 白浜(ほうひん)

左方 喜春楽(きしゅんらく)
右方 納曽利(なそり)

宮内庁式部職楽部

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