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弦の国のクァルテット (プラジャーク・クァルテット)

プラジャーク・クァルテットは、この日本ツアーが現メンバーでの最後の演奏となるという。

1972年結成され、50年にわたって息の長い活動を続けてきた。2015年に第1ヴァイオリンが女性奏者ヤナ・ヴォナシュコーヴァに交代したが、第2ヴァイオリンのホレクも2018年に20-21年のシーズンをもって引退すると表明。チェロのカニュカも独立を表明。本来は、20年のベートーヴェン・イヤーにベートーヴェンの全曲演奏をもっていったん解散ということになっていたらしい。それがコロナ禍で1年、また1年と延期となり、今回まで延びた。ようやく実現した今回の日本ツアーが、いよいよ最後ということになったのです。

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ベートーヴェン全曲は、サルビアホールで行われる。全曲は大変なので、この「ひまわりの郷」ホール(横浜市港南区民文化センター)での公演を聴くことにしました。クァルテットはその後、京都と大阪で公演する予定。それがほんとうのさよなら公演ということになります。

1曲目の第4番が始まると、「弦の国」チェコの団体だと感得しました。

「弦の国・チェコ」というのがいつから言われていて、それがどういうものを指すのかは、本当のところよく知りません。自分自身では、アメリカの郊外地の大学キャンパスで、初めてチェコ・フィルハーモニーを聴いた時のこと。もう40年近い昔ですが、まさに「弦の国」を実感した刹那でした。

その音色は、とても暖かみがあって、まさにボヘミアの森を吹き抜ける風のように爽やか。

最近の若い団体は、ベートーヴェンをとても鋭敏で厳しい音楽にしてしまいます。切っ先鋭く切り込んでくる。それはそれで素晴らしいのですが、このプラジャークのベートーヴェンを聴くと、音楽にくつろぎがあって本当に楽しい。4番は、このジャンルに挑んだ若い頃の連作のひとつですが、すでに円熟味さえ感じます。野心満々のベートーヴェンが、プラジャークにかかると、聴き手をいかに楽しませるかという工夫に腐心し、それがうまく決まるとニンマリする、いたずら好きのエンターテイナーとさえ思えます。

そのことは次の「セリオーソ」も同じ。その作曲技法は機知に富んでいて、意外なことばかりが起こる。交代を繰り返す強弱や緩急の対比が大きく、山坂が多く起伏にも富んでいる。第3楽章も、威儀を正して草原を騎乗で駆け抜けるような爽快さとユーモアがある。そういう親しい自然との調和があって心が晴れやかになるのです。

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そのことは最後のラズモフスキーでも同じ。

進軍するような雄渾さといったような気張ったところがなくて、四人の奏者が繰り出す会話のやりとりや、機転の利いた駆け引きが、いかにも弦楽器のアンサンブルらしくよく溶け合って耳に心地よい。冒頭の強拍の和声の響きのよいこと。ヴァイオリンの単線の伸びやかさ、アクロバティックな跳躍の楽しさ、高域の美しさ。それと対比するチェロの甘やかな歌。ヴィオラやヴァイオリン低音弦の刻みの心地よさ、内声の受けやツッコミの面白さ。

ベートーヴェンが丁々発止と繰り出す音楽が、実に、柔らかく軽快かつ爽快です。音が耳にまろやかなことは、まさに弦の国のクァルテットということなんだと嬉しくなってしまいます。ドヴォルザークとかヤナーチェクといったお国ものの演奏だから…ということとは別のこと。今や懐かしささえ覚えるほどの弦楽アンサンブルの質朴な美しさと魅力そのものです。

最後の公演を、延期を重ねた末の、長途かつ長期の遠征ツアーとして聴かせてくれるのは、メンバーの皆さんが日本びいきだからこそだと思います。こんな演奏が聴けてとても幸せになりました。




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ひまわりの郷コンサート・シリーズ
プラジャーク・クァルテット
2022年5月29日(日)14:00
(2階L列-24)

プラジャーク・クァルテット
ヴァイオリン:ヤナ・ヴォナシュコーヴァ ヴラスティミル・ホレク
ヴィオラ:ヨセフ・クルソニュ
チェロ:ミハル・カニュカ

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲
 第4番ハ短調 作品18-4
 第11番ヘ短調 作品95「セリオーソ」
 
 第8番ホ短調 作品59-2「ラズモフスキー第2番」
 
(アンコール)
 第5番 作品18-5より「メヌエット」
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