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「音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む」(川原 繁人 著)読了 [読書]

音声学の入門書。

著者はとにかく音声学に誘おうとあれこれと手をつくす。そういうことの常套手段が子供をダシにすることというのは古今東西万事に共通する。その企みが成功しているのかどうかはわからないが、この本がかなりの話題を集めているらしいことは確かのようだ。

それでは「音声学」とは何だろうか。

「音声学」とは、言ってみれば、あの発音記号を思い浮かべればよい。英語の学習などでお世話になったあの[ ]に囲まれた音声を表す記号のこと。音声学会が制定する国際音声記号(IPA)は、たいへんな数に上ることを本書で初めて知った。

そういう音声記号の基本になっているのが「調音」で、人間の発声器官を使って音声を発すること、あるいはその声音のこと。これも顔の断面図がおなじみだが、今やそれがMRIで直接観察されていることも本書で知った。

著者はどうやらこういう調音音声学が専門らしく、本書はこういう調音の話題に終始し過ぎるきらいがある。「ママ」([m])「パパ」([p」)とかいった両唇音が幼児語に多いなど、ある意味で常識的な話題ばかりで字数を尽くす。子供に人気のカピチュウの可愛いネーミングにそれが多いといった話しで気を引くが、幼児的な音の取り違えや順番の逆転現象などは音韻論だとして踏み込まない。あるいはTVの警察捜査ドラマの声紋などでおなじみの音響音声学や、言語音声を聴くという聴取、認識、理解という幼児の言語成育にも重要な関わりのある聴覚音声学や音響心理学にもほとんど触れていない。

調音音声学の範囲に限定されると、せっかく音声学に興味を持っても、そこからどう広げていくかの展望や科学的な進路が見えてこない。巻末のゴスペラーズの北山陽一との対談も、その意味で歌手や俳優のボイストレーニングの本質に迫るような力に乏しいと感じてしまう。

子供の話題で誘ってエントリーさせても、それで本当に科学的なマインドが育つのか大いに疑問を感じる。




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音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む
―プリチュワからカピチュウ、おっけーぐるぐるまで―
川原 繁人 (著)
朝日出版社

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