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レジデント・シリーズのスタート (葵トリオ@紀尾井レジデント・シリーズ) [コンサート]

「紀尾井レジデント・シリーズ」は、音楽家あるいはこの葵トリオのような室内楽グループと3年にわたり1年に1回の演奏をじっくりと聴かせるという、紀尾井ホールの新しいシリーズ。

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その第1回が、葵トリオ。

葵トリオは、東京芸大、サントリーホール室内楽アカデミーで出会い2016年に結成されたピアノトリオ。ミュンヘン国際コンクールで優勝という輝かしい栄冠を得ている。「AOI」というのは、要するに三人のイニシャルをそのまま組み合わせたとのこと。なんと単純なんだろうと笑ってしまいました。でも「葵」は、古くから日本で愛されてきたハート型の花で、三つ葉葵のデザインは徳川家「葵の御紋」として親しまれてきました。とても良い名前ではないでしょうか。

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三人は、もちろん、それぞれがトップクラスの演奏家。しかも、とても個性が立っていて、けっこうそれぞれがマイペースのように見えます。ヴァイオリンの小川さんとチェロの伊東さんはもともと芸大の同級生の仲。アンサンブル結成で意気投合したものの、ピアニストをどうしようかということに。二人の意見が一致したのが、室内楽アカデミーで出会ったひとつ年下のピアニストが秋元さんだったという。年下なのに見かけが一番がっちりしていて、しかも、これまたひときわ個性的でマイペース。

凄いというひと言しかないその精密なアンサンブルは、最初のリームを聴いてよくわかります。題名のように音の叙景的、点景的な曖昧な音の印象が並べられているようでいて、どこかとても叙情的な旋律でびっしりと敷き詰められている。つかみどころのない構成なのにアンサンブルが一糸乱れるところがない。

そういう緻密なアンサンブルというのはストリング・クァルテットの持ち味。必ず確固たるリーダーがいて、あるいは、それぞれの持ち場、役割が強固に統合されて、きっちりとした合奏を作り上げる。それに対してピアノ・トリオは、むしろ個性のぶつかり合いでスターたちのスリリングなやり取りこそ面白い。

このトリオは、そのいいとこ取り。アンサンブルの精密さが驚異的なのにもかかわらず、三人がそれぞれに自由にやりたいことをしている。お互いに他をちっとも縛らずに語り合う面白さ。そういうみっしりとした全体造形が基本にあって、しかも、波紋と波紋、刷毛目と刷毛目が自在に連なり重なり、ちがった文様を描くようなところは、二曲目のシューマンに著しい。

一番面白かったのは、やはり聴き慣れたシューベルトでした。

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明らかに女王然と振る舞っているのはヴァイオリンの小川さん。でも、決して支配することもなく、見事なまでに細部のディテールを濃やかな技法で彩り、自分がやりたいように歌い、踊り、跳躍する。その表現の細かさには思わず息を呑んでしまいます。

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童顔の伊東さんの甘い音色のカンタービレは、すでに紀尾井ホール室内管のメンバーとして何度か体験済みですが、ここでも控えめのようでいて出番が来ると実にハンサムで美しい肌合いの色を添える。

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一番、独特なのはピアノの秋元さんで、そっぽを向いているようにやりたい放題という風格でありながら、完全に他の二人をたなごころに乗せて遊んでいる。シューベルトがこんなにも豊穣でまばゆいほどの色彩と愉悦に満ちあふれていると感じたのは初めてです。シューベルトって決して「歌」だけではない。

日本の室内楽の台頭は、クァルテットだけではない。これは、ほんとうに楽しみなトリオです。



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紀尾井レジデント・シリーズ I
葵トリオ(第1回)
2022年3月16日(水) 19:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール
(1階 7列12番)

葵トリオ
小川響子(Vn)、伊東 裕(Vc)、秋元孝介(Pf)

リーム:見知らぬ土地の情景 III
シューマン:ピアノ三重奏曲第1番ニ短調 op.63

シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調 op.99, D898

(アンコール)
シューベルト:ピアノ三重奏曲変ホ長調 op.148(遺作)D897《ノットゥルノ》

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