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無慚なメモリアル (トリオ・アコード) [コンサート]

衝撃でした。

演奏のことではありません。会場のこと。

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クレジットにはカッコつきで(旧 上野学園 石橋メモリアルホール)とありました。数々の名演を生み、特に室内楽や古楽アンサンブルのファンに愛されてきた名ホールでしたが、もはやその面影はほとんどありません。

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ステージ中央の後方壇上にあった美しいパイプオルガンは跡形もない。ステージ上の三角形に近いアーチ型の天井は、無粋な四角四面のプロセニアムに囲まれ上方には照明装置が吊り下げられて、見る影も無い。

もちろん、アコースティックも無慚。あの深くて美しい残響はすっかり消え去っています。残響の名残はむしろ客席だけに残っていて、ステージ上だけはデッドな直接音が前に出てきて、客が立てる雑音がやたらに目立つ客席は、もやっとした雰囲気に包まれるという奇怪なバランス。周囲の壁はそのままですが、大きなカーテンが設置されています。恐らくこれを拡げればにわか仕立ての吸音対策になるということなのでしょう。今後、子供向けのぬいぐるみミュージカルのシアターとして使用されるとのこと。

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個人的にも、その音響がとても好きで、先代の旧・石橋メモリアルホール以来から、数々の名演の思い出もある場所なので、大きな衝撃を受けました。

演奏が始まっても、その精神的なショックが大きくて気もそぞろ。

プログラムは、チェコの作曲家たちばかり。最初のドヴォルザークはどこか悲しげ。まるでこのホールへの追悼のよう。いかにもこの作曲家らしい旋律美はありますが、かえってそれがむき出しに聞こえてしまいます。

マルティヌーは、チェコの作曲家とはいえ、前後のドヴォルザークやスメタナとは違って、少しも郷土色が無い。無調ではないのですがモダンな尖った和声が多く、この残骸のようなアコースティックでは聴いているのが辛いほど。ピアノ、ヴァイオリン、チェロが各々に我を張り合っていて、何の調和もない喧噪のように聞こえてしまうのが残念でした。

一番楽しめたのは、最後のスメタナだったかもしれません。ボヘミアの民俗的な情感たっぷりな旋律や田園的な雰囲気に溢れているし、パート毎のメロディがソロとして弾かれるので直接音主体の音響がかえってよく通る。終楽章のはしゃぎようは、どこか空虚な喜び。

演奏は、たぶん、非の打ち所の無いものだったのだろうと思います。けれども、クラシック音楽家としてよくもこんな因縁のついたこのホールでの演奏を引き受けたものだと思ってしまいます。

プログラムの解説を後で一瞥してみたら、三曲とも各々に自分の子供とか誰かの死を悼んで作曲されたものだったようです。演奏者なりのメッセージなのでしょうか。そうも思いたい。



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東京・春・音楽祭2022
Trio Accord
―― 白井 圭(ヴァイオリン)、門脇大樹(チェロ)、津田裕也(ピアノ)
2022年3月29日(火)19:00~
東京・上野 飛行船シアター
(1階E列15番)

トリオ・アコード
 ヴァイオリン:白井 圭
 チェロ:門脇大樹
 ピアノ:津田裕也

ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第2番 ト短調 op.26
マルティヌー:ピアノ三重奏曲 第3番 ハ長調 H.332

スメタナ:ピアノ三重奏曲 ト短調 op.15

(アンコール)
スメタナ:ポルカ ト短調

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