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チョコレートの滴り (金子亜未 紀尾井ホール管弦楽団定期) [コンサート]

紀尾井ホール管弦楽団のこの日の定期は、もともとは首席指揮者ライナー・ホーネックの最終公演の予定でした。ソリストもロンドン交響楽団オーボエ首席のオリヴィエ・スタンキエーヴィチを予定していましたが、いずれも今の政府のいわゆる『水際対策』にために来日できなくなりました。

2年ぶりの有観客開催となったウィーン・フィル恒例のニューイヤーコンサートの画像にバレンボイムとともに写っているホーネックの姿を見ると残念感が増しますが、新型コロナ感染はクラシック音楽界に多大な影響を及ぼし続けています。

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スタンキエーヴィチの所属するロンドン交響楽団は、ラトルの指揮、ツィメルマンのピアノで、素晴らしいベートーヴェンの協奏曲全曲をリリースしています。この収録は、一昨年末のコロナ感染対策下で行われています。

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リハーサル会場(セントルーク教会)でのセッション収録ですが、各奏者の間隔を空けてホールいっぱいに拡げての配置にもかかわらず、素晴らしい空間音響での集中度の高い演奏となっています。

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ピンチヒッターを務めたのが阪哲朗。

今回で4度目の紀尾井への客演というのも、改めて驚きですが、ウィーンやドイツ各地などヨーロッパ各地の劇場でキャリアを積んできただけあって、いつも正統かつフレッシュな演奏で瞠目させられ続けてきました。ウィーン古典派を指揮すると、ちょうどラトル指揮ロンドン響のベートーヴェンを彷彿とさせるところがあります。

ちょっとサイズの大きい序曲といった一曲目の「リンツ」が終わると、いよいよオーボエのピンチヒッター金子亜未の登場です。

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金子は、現在、読響の首席。先日のアンサンブル・シリーズでは、デュティユーの曲で凄い演奏を目の当たりにしたばかり。オーボエのソロというのはどこか巫女的な憑依がつきもの。その金子は、今回の代演となったスタンキエーヴィチとは2012年に軽井沢で開催された国際オーボエコンクールで競い、彼に次いで二位になったというのも何かの縁でしょうか。

そのシュトラウスが素晴らしかった。

この協奏曲を初めて聴いたのは、はるか昔のこと。N響の定期に登場したハインツ・ホリガーの演奏に衝撃を受けたことを今でも鮮烈に思い出します。それまでのバロック的なオーボエ協奏曲のイメージを打ち破る新鮮極まりない演奏でした。確かにモーツァルトへのオマージュ的なロココ的な雰囲気もあるのでしょうけれど、あの当時の私には前衛とはまた違った20世紀モダニズムの真実を教示されたような気がしたのです。

金子のオーボエは、最初こそちょっとだけ硬いところがありましたが、すぐにまろやかなレガートの果てしない音列の滑らかな艶と甘味に満ちたもの。まさに磨きに磨いた生チョコレートがすーっと伸びやかに滴るかのように甘美そのもの。それは戦争で壊滅したドイツへの哀切極まりない心情というよりは、モーツァルトなどのドイツ・オーストリアの古典への憧憬そのもの。金子はそういう歴史と伝統の積層したチョコレートケーキを焼き上げるようなパティシエそのもの。

後半のベートーヴェンも秀逸でした。

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この日の編成配置は一貫して8-7-6-4-2の両翼対抗左低弦型。紀尾井ホール管では珍しい配置なのですが、阪はこれまでもこの配置に徹しています。聴いてみるとこの配置だと左右の音響の重心のバランスがとてもよい。低域の響きが不思議と右手にも充溢して基盤の拡がりがどっしりと安定している。ベートーヴェンの2番の交響曲というのは、まだまだハイドンやモーツァルトの残影が色濃いのですが、1曲目のリンツなんかよりもはるかに覇気に富んでいて意匠意欲も積極的。久々にこの曲の面白さを堪能させてもらったのは、もしかしたら、かえってホーネックよりも阪のタクトのおかげなのかもしれないとさえ思いました。

コロナ禍の逆風を吹き飛ばすような爽快なコンサートでした。





紀尾井ホール室内管弦楽団 第129回定期演奏会
2022年2月12日(土) 14:00
東京・四谷 紀尾井ホール
(2階センター 2列13番)

阪哲朗 指揮
金子亜未 (オーボエ・ソロ)
玉井 菜採 コンサートマスター
紀尾井ホール室内管弦楽団

モーツァルト:交響曲第36番ハ長調《リンツ》K.425
R. シュトラウス:オーボエ協奏曲ニ長調 AV144, TrV292

ベートーヴェン:交響曲第2番ニ長調 op.36

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