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日本の歌曲 (砂川涼子 ソプラノ・リサイタル)) [コンサート]

浜離宮朝日ホールのランチタイムコンサート。この日は、ソプラノの砂川涼子による歌曲リサイタル。

前半には、ベッリーニ、ロッシーニ、ドニゼッティといったイタリア・オペラの作曲家のアリア、後半は日本の歌曲という構成。

実は、この日、事情があってホールに大幅に遅参。後半だけを聴くということになって、図らずも私にとってはオール日本歌曲のプログラムということになりました。日本の歌曲というのは、アンコールで聴くことはあってもプログラムの主役ということにはなりません。私も、プログラムすべてが日本歌曲というのは、川口聖歌さんの武満徹の歌曲全曲というのが唯一の体験。

多くの日本人にとって懐かしいほどの親しみを感じさせる名曲の数々が、日本でのリサイタル・ステージの主役になりにくいというのは、ある意味では不思議なことだと思います。それは、どこか文部省唱歌という「官製」の古臭さと庶民的に過ぎる通俗性が、やや食傷気味という気分にさせてしまう。合唱曲は盛んですが、これとて学校対抗コンクールの課題曲的イメージが免れません。また、オペラがまだまだ自国文化として根付いていないというクラシック音楽に顕著な西欧中心主義もあるのだと思います。

そういうものを吹き飛ばすような砂川涼子の歌唱が素晴らしかった。

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砂川は、昨秋の新国立劇場「カルメン」でのミカエラの印象がまだまだ鮮烈に残っています。素朴で純情な田舎娘といった役柄でも美貌と姿の良さが引き立ち、ホセを何とかこちらにたぐり寄せようとする健気な引力を歌い上げていました。

選曲にもセンスを感じます。

導入の山田耕筰《中国地方の子守歌》はともかくも、ほとんどがあまり知られていない曲。中田喜直といったポピュラーな作曲家であっても、決して有名な曲ではありません。もちろん私は初めて聴く曲がほとんど。それでも日本歌曲の創造性豊かな独自性と格調の高さを存分に楽しめました。砂川のみなぎるようなパワーに溢れた歌唱がホールいっぱいに充溢すると、あらためて日本語の語感の美しさにほっとさせられる。三木露風、北原白秋といった詩人たちの詩の日本的情緒がかえって新鮮に感じられるほど。

表_砂川涼子 (c) Yoshinobu Fukaya -HP-thumb-250xauto-3848.jpg

三木稔の歌劇《静と義経》では、中世日本の今様を模した歌唱技巧が実に雄弁に歌われていて大感激。このオペラの台本が、あのなかにし礼だと知って軽い驚きもあります。歌い込まれた和歌の歌詞「しづやしづ しずのおだまきくりかえし むかしをいまに なすよしもがな」も真っ直ぐに聴き手のところにまで届いてくるのです。

最後の團伊玖磨の歌劇《夕鶴》は、日本人作曲家のオペラの先鞭をつけたもの。確かにこれは何度も上演されています。もともとは木下順二が《鶴の恩返し》を題材にした戯曲は民俗劇として一世を風靡して、山本安英の《つう》は超ロングランを続けました。私も中学生の時に学校の課外授業として区の公会堂で観たことをよく覚えています。團伊玖磨がすぐに曲をつけてオペラにして、実演は観たことはないのですがTVなどで度々目にしてきました。《私の大事な与ひょう》はリサイタルの掉尾を飾る見事な絶唱でした。

裏_Ryuichiro SONODA - (c)Fabio Parenzan 6 -HP-thumb-200xauto-3847.jpg

献身的に寄り添う園田のピアノも、とてもよく歌っていました。さすが堂に入ったものでした。

日本の歌曲はもっと歌われてよい…それが、率直な感想です。何ともいえない不思議な充実感がありました。


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浜離宮ランチタイムコンサートvol.211
砂川涼子ソプラノ・リサイタル
2022年2月22日(金) 11:30~
東京・築地 浜離宮朝日ホール
(2階R列10番)

砂川涼子 (ソプラノ)
園田隆一郎 (ピアノ)

ヴィンチェンツォ・ベッリーニ:3つのアリエッタ
               1.熱烈な願い
               2.私のフィッレの悲しげなおもかげ
               3.銀色の淡い月よ
G.ロッシーニ:黙って嘆こう「非難」「古風なアリエッタ」「アラゴネーズ」
G.ドニゼッティ:歌劇「アンナ・ボレーナ」より
        "あの方は泣いているの?~私の生まれたあのお城"

山田耕筰:「中国地方の子守歌」「野薔薇」「曼珠沙華」
中田 喜直:「霧と話した」「髪」「サルビア」
三木稔 : 歌劇「静と義経」より "賤のおだまき"
團 伊玖磨:歌劇「夕鶴」より"私の大事な与ひょう "

(アンコール)
沼尻竜典:歌劇『竹取物語』より「ひめの出題~どなたの愛が一番深いか~」

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